月を待つ。【90日目
見えそうで見えない月が出てくるのを
叔母の家の屋上から待っていた。
台風のせいで雲が多くて
それでも流れる速さはなかなかだった。
そのせいか、タイミングが良ければ顔を出してくれるんじゃないかと期待してしまって
あともう少し、あともう少しと
帰るのを嫌がる子どものように
その場をなかなか離れることができなかった。
あともう少しだけ、あともう少しだけ。
ばあちゃんの死期が近い。
こんな風に言ってしまうのは聞こえが良くないかもしれないけれど
叔母の家でゆっくりと 今は そこへ向かう時間を過ごしている。
土曜に、「恐らくここ2日が山場です」と言われて
いろんな親戚が顔を見に集まった。
沖縄のおばあを絵に描いたような祖母がやせ細っていくのを見るのは辛いけれど
痛いという背中をみんなで代わる代わる擦って
手を握って話しかけている。
あともう少しだけ、あともう少しだけ。
母を含む彼女の兄弟たちを中心にケアをしているのだけれど
叔母が「一日でも長くって思ってしまうのはこっちのエゴなんだろうかとも思うんだけれど、諦めきれない」と零したときに
「諦めないけど、頑張らない。っていい言葉だと思わない?」
と返した彼女の妹の気遣いが素敵だなと思った。
山を超えたおばあの強さを尊敬しながら
緩やかに、もう少し わたしたちに受け入れる時間をくれているのかと思って
母親は強いなと勝手に胸を熱くする。
あともう少しだけ、あともう少しだけ。
好きなひとと過ごせる時間は尊い有限だ。
月を見ながら想うひとたちが
幸せであるようにと今日も祈った。
最後まで読んでくださってありがとう。
それではきっと またあした。